Trezor Safe 5やTrezor Safe 3を購入して、いざセットアップしようとしたら「20語のバックアップ」が表示されて戸惑った方もいるかもしれません。
「他のウォレットは12語や24語なのに、なぜ20語?」「今まで使っていた24語のフレーズは使えないの?」
この記事では、そんな疑問にお答えします。
結論:BIP39も使えます
まず結論からお伝えすると、Trezor Safe 5/3でもBIP39(12語・24語)は使えます。
セットアップ時に「Legacy Backup Types(レガシーバックアップ)」を選択すれば、従来どおり12語または24語のバックアップを作成できます。また、他のウォレットで作成した12語・24語のBIP39フレーズからの復元にも対応しています。
ただし、Trezorは新規ウォレット作成時には20語のSLIP39を推奨しています。その理由を見ていきましょう。

Trezor Suite セットアップ画面のスクリーンショット。「Single-share Backup」がデフォルトで選択されており、下部に「Legacy Backup Types」の選択肢がある
そもそもBIP39とSLIP39って何?
どちらも「リカバリーフレーズ(シードフレーズ)」の規格です。ハードウェアウォレットが壊れたり紛失したりしても、このフレーズがあれば資産を復元できます。
BIP39(12語・24語)
BIP39 は2013年の策定以来、広く使われる標準規格で、ほぼすべてのウォレットが対応しており、互換性の面では圧倒的です。
SLIP39(20語)
2019年にSatoshiLabsが提案した新しい規格です。BIP39の課題を解決するために設計されました。
BIP39の弱点:「1枚のバックアップ」というリスク
BIP39では、12語または24語の単語リストが1枚のバックアップとしてすべてを握っています。
これは便利ですが、大きなリスクも抱えています。
紛失したら?
→ 資産に二度とアクセスできなくなります
盗まれたら?
→ 資産をすべて奪われます
安全のためにコピーを複数作ったら?
→ 盗まれるリスクが増えます
「失ったら困る」けど、「他の人に知られるのも困る」ので無闇に複製を沢山作っておくこともできないというのはジレンマですね。また、この例の様に、1つの情報を失ったり、盗まれるだけで大きな問題(ウォレットの場合は大切な資産にアクセスできなくなったり、盗まれたりする)が発生する要因を「単一障害点(Single Point of Failure)」と呼びます。
SLIP39の解決策:バックアップを「分割」する
SLIP39は、この問題を「シャミアの秘密分散法」という暗号技術で解決します。
簡単に言うと、バックアップを複数枚の「シェア」に分割し、一定枚数が揃わないと復元できない仕組みです。
例:3-of-5 マルチシェアバックアップの構成
- 5枚のシェア(それぞれ20語)を作成する
- 復元には任意の3枚が必要
- 1〜2枚を紛失しても、残りの3枚で復元できる
- 1〜2枚を盗まれても、それだけでは資産にアクセスできない
紛失にも盗難にも強い、より安全なバックアップ方式です。
でも20語1枚なら、BIP39と同じでは?
確かに、Trezor Safe 5/3のデフォルトである「シングルシェアバックアップ(Single-share Backup)」は、SLIP39形式の20語バックアップを1枚だけ作成する方式です。
「1枚ならBIP39と同じでは?」と思われるかもしれませんが、重要な違いがあります。
後からアップグレードできる
BIP39で作成したウォレットは、後からバックアップ方式を変更できません。
しかしSLIP39のシングルシェアバックアップで始めれば、Trezor Suiteを使って後から3-of-5などのマルチシェアバックアップ(Multi-share Backup)構成にアップグレードできます。アップグレードする際、資産を別のウォレットに移すといった手間が必要ありません。
つまり、最初は1枚で手軽に始めて、保有額が増えてきたらより安全なマルチシェアバックアップに移行するという使い方ができるわけです。
SLIP39のその他のメリット
ワードリストの改善
SLIP39は専用の1024語リストを使用しています。BIP39の2048語と比べて以下の改善があります。
- 似た単語を排除し、書き間違いを防ぐ
- 各シェアにチェックサムがあり、入力ミスを検出できる
バックアップの再作成が可能
BIP39では、ウォレット作成時に表示されたフレーズが唯一のバックアップです。後から「もう一度見せて」ということはできません。
SLIP39では、Trezor Suite上で新しいシェアを作成したり、シェアの構成を変更したりできます。
BIP39とSLIP39の比較表
| 項目 | BIP39 | SLIP39 |
|---|---|---|
| 単語数 | 12語 / 24語 | 20語(1シェアあたり) |
| バックアップ枚数 | 1枚のみ | 1枚〜16枚 |
| 紛失時の復元 | 不可能 | 閾値以上のシェアがあれば可能 |
| 盗難時のリスク | 全資産流出 | 閾値未満なら安全 |
| 後からの変更 | 不可能 | マルチシェアバックアップにアップグレード可能 |
| 他ウォレットとの互換性 | ほぼすべて対応 | 対応ウォレットは限定的(増加中) |
SLIP39の注意点:互換性
SLIP39にも弱点があります。それは対応しているウォレットがまだ限られていることです。
現時点でSLIP39に対応しているウォレットは以下のとおりです。
ハードウェアウォレット
- Trezor Safe 7 / Safe 5 / Safe 3 / Model T
ソフトウェアウォレット
- Electrum
- Sparrow
- BlueWallet
- Rabby
対応ウォレットは増加傾向にありますが、BIP39ほどの普及度にはまだ達していません。万が一Trezorが使えなくなった場合に備えて、対応ウォレットの存在を把握しておくと安心です。
よくある質問
Q. 今持っている24語のフレーズで Trezor Safe 5/3 に復元できますか?
A. はい、できます。 Trezor Safe 5/3 は BIP39 の12語・24語フレーズからの復元に対応しています。
Q. SLIP39 のフレーズを他社のウォレットで復元できますか?
A. 対応ウォレットでのみ可能です。 Electrum や Sparrow など対応ソフトウェアウォレットで復元できます。Ledger や Coldcard など他社ハードウェアウォレットでは現時点で対応していません。
Q. マルチシグと SLIP39 のマルチシェアは同じものですか?
A. 別の概念です。
- SLIP39マルチシェア:バックアップ(復元用フレーズ)を分割する仕組み
- マルチシグ:送金時の署名権限を分散する仕組み
SLIP39は「バックアップを安全に保管する」ための技術、マルチシグは「送金を安全に行う」ための技術です。両方を併用することも可能です。
Q. 結局、どちらを選べばいいですか?
A. 状況によります。
- BIP39を選ぶ場合:他のウォレットとの互換性を重視する、マルチシグで複数ウォレットを組み合わせる予定がある
- SLIP39を選ぶ場合:Trezor をメインで長期運用する、将来的にバックアップを分散管理したい
迷ったら、Trezor のデフォルトであるSLIP39(シングルシェアバックアップ)で始めて、必要に応じてBIP39ウォレットを別途作成するという方法もあります。
参考リンク
- Trezor公式 “Trezor Safe 5 FAQs”
https://trezor.io/learn/a/trezor-safe-5-faqs - Trezor公式 “Understanding Trezor wallet backups: 12, 20 or 24 words”
https://trezor.io/learn/a/understanding-trezor-wallet-backups-12-20-or-24-words - Trezor公式 “SLIP39 FAQs”
https://trezor.io/guides/backups-recovery/general-standards/slip39-faqs - Trezor公式 “Single-share Backup on Trezor”
https://trezor.io/guides/backups-recovery/general-standards/single-share-backup-on-trezor

